第1回メルロ゠ポンティ若手研究賞審査結果
授賞作(論文部門)
横田 仁「動機の表明――メルロ=ポンティにおける哲学者の徳」 (『メルロ=ポンティ研究』26巻、2022年、所収)
授賞理由
『哲学をたたえて』におけるメルロ=ポンティのデカルト批判の意味を問いながら、メルロ=ポンティの考える哲学者の徳が、たんなる二者択一の選択のうちにではなく、自己の採る態度の動機の表明のうちにあることを、丁寧な考察を通じて一定の説得性とともに示した研究である。メルロ=ポンティの倫理学という近年研究が進みつつある分野で重要な意義を持ちうる研究として評価に値する。
ただ、審査委員会では、次のような欠点も指摘された。
まず、議論の中心に置かれている「動機」の概念それ自体に曖昧さがある他、不自然な推論が散見され、論述の組み立てに少なからぬ難点がある。次に、本論文の目玉の一つである現代英米系の徳倫理学との関係づけは、実際のところ、主題の探究それ自体に関しては有効に働いていない。さらに、『哲学をたたえて』という特殊なテクストの特殊な箇所への着目は、本論文の一長所でもありながら、他の主要テクストの軽視によって、短所ともなっている。 以上のような欠点にもかかわらず、本審査委員会は、上述の理由により、今後を期待される若手研究者の業績の一として本論文を評価し、本賞(論文部門)受賞に相応しいと判断した。