Merleau - Ponty Circle of JAPAN メルロ=ポンティ・サークル

メルロ=ポンティ若手研究賞The MPCJ Young Researchers Awards

第2回メルロ゠ポンティ若手研究賞審査結果

受賞作(論文部門)

佐野 泰之「意識の沈黙と言語のざわめきーーパラン、サルトル、メルロ゠ポンティ」(『メルロ=ポンティ研究』27巻、2023年所収)

受賞理由

本論文は、ブリス・パランの『言語の本性と機能に関する研究』についてサルトルが発表した「行きと帰り」という論文に関するメルロ=ポンティの読書ノートを手がかりに、三者の議論を綿密かつ有機的に突き合わせ、とりわけ意識の沈黙と言語のざわめきという重要問題に関して光を当てようとするものです。その結果、メルロ=ポンティが、パランとサルトル両者の主張を取り上げながら、言語の世界から沈黙の世界へ、沈黙の世界から言語の世界への緊張を孕んだ往復運動を問題化しようとしていたことが示されています。
審査委員会では、新たな資料を参照しつつ、メルロ=ポンティ研究の根本問題と関係付け、あらたな研究への呼び水にもなり得るものとして高く評価されました。問題設定や論述がきわめて適切で、メルロ=ポンティのみならずパラン、サルトル研究にも刺激を与えるものとなるでしょう。またパランやサルトルの立場からの応答も引き起こし、さらなる研究へとつながる可能性も秘めています。メルロ=ポンティの「沈黙」の主題についても、他のテクストと突き合わせることで、さらなる研究の深化が期待されます。

受賞作(論文部門)

印部 仁博「メルロ゠ポンティにおける生きられた物の充実と実在性について」(『メルロ=ポンティ研究』27巻、2023年所収)

受賞理由

本論文は、メルロ=ポンティ『知覚の現象学』第二部「ものと自然世界」の詳細な読解をとおして、実在性が知覚主体における物(la chose)の経験を可能にする媒介として機能していることを示すものです。そのため本論文は、メルロ=ポンティが実在性に関してシェーラーについて論じている部分を中心に詳細に検討し、メルロ=ポンティ自身の身体と環境との関係を再考しています。
審査委員会では、問題設定の的確さと論述の一貫性、周辺文献の適切かつ着実な参照、それによる実在性や環境についての新たな解釈の可能性が高く評価されました。ただし議論が『知覚の現象学』第二部にほぼ限定されているため、メルロ=ポンティを含む他の文献への広がり、環境事物や斥力の問題について踏み込めば、さらなる発展が見込まれるのではないでしょうか。たいへん手堅い研究であるので、本論の注などでも示唆されている問題を取り上げ、あまり禁欲的になりすぎず、問題の射程の広さを示していくことをこれから期待します。

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